九官鳥・寛太のこと。-その1-
アイツは最高だった。
最高にワルで、わがままで、アホでバカで、プライドだけは高くて、
最高にファンキーな鳥公だった。
アイツのことを語りだしたら一晩じゃ足りない。
もともと家には芝犬の龍ちゃんがいて、同じ敷地内の叔母のところには4匹も猫がいて。
池は毎春ヒキガエルだらけ。
もう十分動物だらけだから。これ以上、責任の発生するペットを飼うなんて、考えていなかった。
私の実家は、お寺。
お寺と九官鳥は、なんだか似合う。
だけどまさか、本当に九官鳥を飼う日が来るとは、
想像してなかった。。。
ある午後、家に帰ったら、奴がいた。
『お母さんが、この子の前から動かなかったんだよー。』と父。
目つきが悪い、変な鳥がいる・・・。
両親がホームセンターで購入てきたらしい。
ある秋の晴た日の午後、奴はリビングに当然のように、居座っていた。
この鳥は、中国からの輸入で、日本には雄しか入ってこないらしい。
当時はまだまだペットショップに並んでいたが、今やどんどん貴重になり、2017年現在、日本では殆ど手に入らない。
それが正しい。野生種なのだし。本来、愛玩動物として輸入すべきでないと思う。
時は2001年9月初旬。その鳥は、母の誕生日プレンゼントだという。
リーマンショックもまだ知らない。
インターネットは広まったけど、そんな世界がヒックり変えるほどの衝撃とも受け取れず、新しもの好きの私はただちょっとワクワクする程度で、ドラクエの新作が出たくらいの気持ち。
これからも、世界には同じ日々が続くと思っていた。そんな頃。
日曜大工センターのペットコーナーに九官鳥がいる、というのは、知ってた。
可愛い!....てのもわかる。
でもまさか、本当に奴を連れて帰ってくるとは、思っていなかった。
飼うに至った過程は、よくわからない。
とにかく、
奴は、鎮座していた。
目つきも悪いし。。。懐きそうに思えない。
うちには龍之介という愛犬がいるのに。なんだよ、なんで今さら鳥なんか連れてきちゃうんだよ・・・
この両親が独断で買ってしまった九官鳥に対し、どうせ世話を手伝わないとならないことになるのが目に見えていた私は、正直、面倒臭いなぁ、て思った。
名前どうする?という話になって、
店に長くいたこの九官鳥は、すでに"Qちゃん"とお客さんたちに呼ばれていて、
店内で「キューちゃん!おはよ!」とお喋りするのも知られていた。
本人(本鳥)も自分はQちゃんだと、その気になってたわけだ。
・・・だが、家に来て1日すぎても、彼は一言も喋らない。
私は、両親に、"Qちゃん"という名は困る、と進言した。
なぜなら、音が愛犬の"龍ちゃん"に非常に近いから、龍ちゃんが混乱する、と。
だから別の名前を与えて欲しい、と。
そう進言した責任感から、私は自ら名前の案を色々出して、
結局、良寛和尚に肖った「寛」の字をもらい、「寛太」と命名した。
(ちなみに、犬の龍之介も私が名付け親で、これは勿論、文豪・芥川龍之介が由来)
さて"Qちゃん"改め"寛太"氏、うちにきて3日目に入ったが、いっこうにお喋りをしない。。。
返品しちゃえ!と暴言が飛び交い出す始末。
私は、寛太は喋れるのに喋らないのは、単に緊張が解けてないんだろう、となんとなく感じていた。
それで、二人きりになった午後、寛太に、あるCDを聴かせてみた。
私が聴きたいからだけど、たぶん、この鳥公も聴くんじゃないか?となんとなく、そう思ったので、CDをかけた。
案の定、寛太は、歌い出したのだ。
彼の言葉を、ついに発し出したのだ!
ピロロロロ〜♪から始まり、
「おはよ。」「こんにちは。」「Qちゃん!」・・・喋ること喋ること!!
心を解放しだしのだ!
私はおかしくなって、、、急いで母の元に駆け寄った、
「寛太が、...お喋り始めたよ!」って。
そして母も、寛太のおしゃべりを聴いた。
「あの子は、緊張してたのよ。でも音楽にこんなに反応するとは思わなかった。」
私は、本当に面白かった。
寛太と名付けた九官鳥と私との、奇妙な交流が始まった瞬間である。
やっとお喋りを始めたペットの九官鳥に興奮する母娘。
だけどそれを察した寛太は、”しまった”とでも思ったのか、喋るのをやめてしまった。
夜、鳥籠に毛布をかけて、寛太を寝かせる。
だけどすぐには寝ない。中でゴソゴソ動いてる。
私は毛布の間から指を入れて、わざと寛太に指を噛ませた。
そう、わざと。
警戒しなくていいんだよ、て合図である。
なぜそんなことをするのか?というと、これは、気難しい愛犬とのやりとりなど、色々経験をして、私なりに、感を得たからこその技みたいなもの。
寛太は、まだ新しい環境である我が家を、うちの人間をひどく警戒していると、自分は理解していた。
だから、敵でないことをしつこいくらいに示して、警戒心を解いてやることから始めないとならない。
そう思ったから。
わざと相手に身を委ねる姿勢を見せ、警戒心を和らげる作戦に出てみた。
予想通り、寛太は私の指を突いてきたが、それは弱くて、いわゆる甘噛みのようだった。
私はこのジェスチャーを通して、彼と会話した。
私たちだけの秘密の会話。
これが効いたのかどうかはわからないけど、
こうして何晩か経った頃には、寛太はすっかり家に慣れ、
お喋りにも積極的になっていた。
九官鳥・寛太が、家族の一員となったのだ。
9.11も起こり、私たちの間抜けな日常をよそに、世界が激動していた頃。
寛太は、新参者とは思えない、強い存在感で、俺こそが住職の一番弟子である!と言わんばかりの堂々たる姿勢で、みんなを笑わせ、みんなに面白がられ、今や家族の中心的存在になっていた。
実際、父(寺の住職でもある)は寛太をとても可愛がっていた。
私と龍之介の仲を嫉妬してたのか?と思うくらい、寛太は偉いんだ!て主張してきた。
当の寛太の方も、父の恩寵を受けてるという自覚がそのまま自信になっているようだった。
そのうち、その自信ゆえか、寛太は犬の龍ちゃんをちょっと見下す態度を見せ始めた。
寛太は龍ちゃんのことを、バカにしたように「龍ちゃーん、ワンワン!」と呼ぶのだ。
全く!なんて生意気な鳥だ!と私は思った。
寛太の中でのヒエラルキーが見え見えだったから。
彼の解釈では、自分はこの家では住職に次ぐNo.2なのだ。犬の龍之介は、自分より下、と思っているのだ!
とんでもない話だけど。
そう、だから私のことも下に見ていた。
それは態度によーく出ていた。
何しろ、私が帰ってくると、あいつは睨んできたから。
姿勢を低くして、「お前今までどこで何してやがった!」と言わんばかりの顔。
そして極めつは、私がソファーに座ると、止まり木をわざと外して落とし、
「おい!こんなんなっちゃったぞ、直せよ!」「早く直せー!」
と主張してくる。
私もバカなので、渋々と「もー。ダメでしょ!」と言いながら直してあげて、またソファーに着く。
すると、寛太はまたわざと止まり木を外すのだ!「おーいまたハズレたぞ!」と。
こんなやり取りを何度も繰り返した。
憎たらしい、コンチクショウめ!な寛太。・・・だけど
私は同時に、奴の賢さに感心していた。
なんて頭のいい鳥なんだ!と。感動すら覚えていた。
確かに私は寛太ヒエラルキーでは、寛太より下の地位らしいけど、
だけど、どこか私に対しては、単に見下してるだけともいえず、
最初の交流が効いてるというか、
あいつも、あいつなりに私が好きだったんだなって、
威張って見せるのもあいつなりの愛情表現で、私に甘えてるんだなって。
そしてきっと、あいつも、私と龍ちゃんの仲に、ちょっと嫉妬してたんじゃないかなって、
なんとなく、そう思えてしまってた。
いずれにしても
おかしな寛太坊!
生意気だけど同時に賢く気高かかった・・・
また続編は、日を改めて。